New Season / The Gabardine Collection
新しい季節は、新しいデザインから始まるのではなく、素材を見つめ直すことから始まります。
2026年秋冬シーズン、ANATOMICAがまずご紹介するのは、
独自に開発したコットンギャバジンを軸としたコレクションです。
長年にわたり理想のコートを追求する中で辿り着いたこのオリジナルファブリックは、
美しいシルエットを支える適度なハリと、着込むほどに身体へ馴染んでいくしなやかさ、そして撥水性を兼ね備えています。
今シーズンは、その一枚のギャバジンから生まれた三つのアウターをご紹介します。
それぞれ異なる用途と構造を持ちながら、その根底には共通する一つの思想があります。
ANATOMICAにとって、機能と美しさは別々に存在するものではありません。
何のために着るのか。身体がどのように動くのか。そのためにはどのような構造と素材が必要なのか。
機能を突き詰めることで服の形が生まれ、その形が結果として美しさにつながっていく。
この考え方は、ANATOMICAのものづくりを理解する上で、とても重要なものです。
THE CLOTH

すべての一着は、一枚の布から始まります。
ANATOMICAが長年作り続けてきたコットンギャバジンは、
ブランドが理想とするコートのために独自に開発したオリジナルファブリックです。
求めたのは、単なる耐久性や機能性ではありません。
肩の丸みを美しく描き、裾には自然なドレープを生み、着込むほどに身体へ馴染んでいくこと。
経糸と緯糸で異なる色の糸を使用することで、時間とともに現れる変化まで美しくあること。
そのすべてを支えられる生地であることが、このギャバジンには求められました。
ANATOMICAのディレクター、ピエール・フルニエはSINGLE RAGLANについて、「コートは歩いたときに美しく流れなければならない」と語っています。
コートの美しさは、ハンガーに掛けられた状態や、静止した姿だけで決まるものではありません。
人が袖を通し、歩き、身体を動かしたときに、布がどのような線を描くのか。
その動きまで含めて、一着のコートは設計されています。

だからこそ、布の性質が重要になります。
高密度に織り上げられた生地は、適度な反発としなやかさを併せ持っています。
身体から離れた部分では美しい立体感を保ち、身体に触れる部分では少しずつ馴染みながら、その人だけの輪郭を描いていきます。
もし生地が柔らかすぎれば、シルエットは輪郭を失います。
反対に硬すぎれば、服は身体から離れ、動きに追従することができません。
ANATOMICAのギャバジンは、その二つの間にある絶妙な均衡を目指して設計されました。
つまり、ギャバジンは完成したデザインに後から選ばれた素材ではありません。
歩いたときに美しく流れるコートをつくる。そのために必要な布を考え、その布の性質を最大限に生かすための構造を考える。
素材と構造、そして身体の動きは、ひとつながりにあります。
服は縫製が完了した状態で完成ではありません。
袖を通し、季節を重ね、時間を積み重ねることで、
生地は少しずつ身体を記憶し、その人だけの一着へと近づいていきます。
だからこそANATOMICAは、生地を単なる素材ではなく、服の構造そのものを支える存在として考えています。
今年はこの素材を、三つの異なる形で表現しました。
SINGLE RAGLAN I
ANATOMICAを象徴する一着

SINGLE RAGLAN Iは、ANATOMICAを代表するコートであり、ブランドのものづくりを最も象徴する一着です。
特徴である一枚袖は、単に珍しい構造であることを目的として採用されたものではありません。
肩幅や体格に左右されることなく、誰が着ても自然で美しいシルエットを生み出すための設計です。
肩線をなくし、一枚の大きなパーツで肩から袖までを構成することで、
生地は身体の上を無理なく流れ、それぞれの肩の形へ自然と馴染んでいきます。
そのシルエットを支えているのが、オリジナルギャバジンの適度な反発。
肩には立体感を残しながら、裾へ向かって滑らかに落ちる。
そして一歩踏み出すたびに、Aラインの大きな裾が身体の動きに合わせて揺れ、新しい線を描きます。
ピエールが求めた「歩いたときに美しく流れるコート」は、一枚袖という構造だけでも、ギャバジンという素材だけでも成立しません。
身体、構造、素材。
その三つが揃うことで、SINGLE RAGLANのシルエットは完成します。

今シーズンは定番のBEIGE、NAVYに加え、新色OYSTERが登場しました。
華やかさを競う色ではなく、ギャバジンが生み出す陰影や立体感を、より豊かに映し出すための新しい選択です。
SINGLE RAGLAN X
新たな解釈

新作であるSINGLE RAGLAN Xは、VINTAGEのタイロッケンコートをANATOMICAの視点で再構築した新しいモデルです。
ベースとなったタイロッケンコートは、前身頃を大きく重ね、ベルトによって身体を包み込む独特の構造を持っています。
ANATOMICAはそこへ、一枚袖という考え方を組み合わせました。
生地は肩から袖へと自然に流れ、深く重なる前身頃は、ギャバジンの適度な張りによって美しい立体感を保ちます。
そしてベルトを締めた瞬間、その張りは柔らかなドレープへと変化し、身体の動きに合わせて豊かな表情を生み出します。

ラップコートという構造において、生地の選択は特に重要です。
硬すぎる生地では、重なり合う前身頃が厚くなりすぎてしまう。
反対に柔らかすぎれば、身体の周囲でもたつき、タイロッケンが本来持つ力強い輪郭を失ってしまいます。
ここでも、ANATOMICAのギャバジンが持つハリとしなやかさの均衡が生きています。
タイロッケンが持つ力強さと、一枚袖ならではの軽やかさ。
相反するように見える二つの要素を、一枚のギャバジンが自然につないでいます。
VAN NUYS JACKET
軽やかなもう一つの表現

同じギャバジンでも、用途が変われば生地の見え方も変わります。
新作VAN NUYS JACKETは、クラシックなゴルフジャケットをルーツに持つ一着です。
ゴルフという身体を大きく動かすスポーツから生まれた服には、その動きを妨げないための機能が必要でした。
肩を動かしやすいラグランスリーブ。
動作を邪魔しない短めの着丈。
身体の動きを受け止めるゆとりのある身幅。
そして裾を身体の近くに留めながら、上半身には動くための空間を残すリブ。
それぞれのディテールは装飾として加えられたものではなく、用途から生まれたものです。
そして、その機能の積み重ねがVAN NUYS JACKET特有の丸みのあるシルエットをつくっています。

コートでは縦へ流れていたギャバジンは、このジャケットでは身体を包み込むような立体感へと姿を変えます。
同じ素材でありながら、求められる機能が変われば、
設計が変わり、シルエットも、動きも、着心地も変わる。
それは生地が優れているだけではなく、その性質を理解した上で設計されているからです。
VAN NUYS JACKETは、ギャバジンという素材が持つ可能性を、最も軽快なかたちで表現した一着と言えます。
THREE EXPRESSIONS

一枚のギャバジン。
そこから生まれた三つのアウター。
SINGLE RAGLAN I。
SINGLE RAGLAN X。
VAN NUYS JACKET。
形も用途も異なります。
しかし、その設計の出発点は共通しています。
素材を理解し、その素材が最も美しく機能する構造を考えること。
今年ANATOMICA PARISが紹介された記事の中で、パリチームのCharles Nousseはブランドについて、*「服や靴の機能がその形を生み、その形が美しさを決める」*と語っています。
それは、ANATOMICAが長年続けてきたものづくりを、とても端的に表した言葉です。
ANATOMICAにとってデザインとは、装飾を加えることではありません。
何のために存在する服なのかを考え、必要な機能を追求し、そのための素材と構造を選ぶ。
その結果として生まれた形に、美しさを見出すこと。
VINTAGEに敬意を払いながら、ただ過去の形を再現するのではなく、
そこに存在する理由を読み解き、次の世代にも継承できる素材と設計でつくり続けること。
"The Gabardine Collection"は、ギャバジンという一枚の布を通して、ANATOMICAが長年向き合い続けてきた服づくりの思想を表現したコレクションです。
袖を通したその日から、そして何年も先まで。
素材とともに育っていく一着を、ぜひお楽しみください。